「相続対策」というと、相続税の節税に目が向きがちです。
しかし、節税を最優先に相続対策を行うと、相続後に揉め事が起こるかもしれません。
例を2つあげてお話いたします。
アパートなど分けられない財産を購入した場合
相続税を引き下げるため、銀行から融資を受けてアパートなどの賃貸物件を建てるケース。
確かにアパートを建てれば、
- 土地の相続税評価は「貸家建付地」評価になる。
- 建物の相続税評価は「固定資産税評価額」が使われ、さらに「貸家」評価になる。
という理由で、現金で持っているよりも評価額が半分くらいに下がります。
さらに借入金は相続財産から引くことができます。
したがって、アパートを建てると相続税を大幅に下げることができるのです。
▼アパートの相続税評価の詳しい内容はこちらをご覧ください。
ただし、アパートは現金と違って相続人の間で分けることが難しいという欠点があります。
相続人が複数いる場合、誰がアパートを相続するのか揉める可能性が出てきます。
ならばアパートを相続人みんなで共有にすれば?
という声が聞こえてきそうですが、共有にすると、
- 例えば共有者の1人がアパートを売りたいと思っても、他の共有者全員の同意が得られなければ売ることができない。
- 共有者に相続が起これば、その相続人が共有者になるため、共有者がどんどん増える。
という弊害が生じます。
したがって、相続人全員が将来アパートを売ることに同意している場合を除き、共有にするのはおススメしません。
このように、現金を分けにくい不動産に変えてしまうと、相続税が下がってもその相続をめぐって揉めることになるかもしれません。
相続人間で不公平になる対策を行った場合
相続税を下げるため、相続人間で不公平になる対策をとるのも考えものです。
下記の家族を例にお話ししましょう。
- 父
- 長女(夫の持ち家に住んでいる)
- 長男(賃貸マンションに住んでいる)
父が相続税を下げるため、持ち家がない長男に住宅取得資金として1,000万円の贈与をしたとします。
「住宅取得資金の贈与」として要件を満たせば、長男に贈与税はかかりません。
父の財産も1,000万円減るので相続税も減ります。
さらに住宅取得資金の贈与は、3年以内生前贈与加算の対象にはなりません。
したがって、確実に税金を減らすことができます。
▼住宅取得等資金の贈与の非課税とは
国税庁「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
▼3年以内生前贈与加算についての記事
しかし長女の気持ちはどうでしょう?
いくら税金が減るからといっても、長男にだけ1,000万円もの大金をあげたというのは不公平に感じるでしょう。
私も実際に、過去の不公平な贈与が原因で揉める相続を何度か経験したことがあります。
このように、相続税が下がるからといって相続人間で不公平になる対策をとってしまうと、あとで揉め事が起こる原因となりうるのです。
相続対策は「揉めないこと」こそが重要
相続税を下げることだけを考えて相続対策をすると、その対策が揉め事の原因になるかもしれません。
相続対策は、残された家族が揉めないようにすることこそが重要と考えます。
相続対策の順番は、
- 分け方を考える
- 相続税の納税資金の確保
- 節税対策
というように、まずは揉めない分け方を考え、最後に節税対策を考えようと言われます。
家族によかれと思ってやった相続対策がかえって不幸を招くようではいけません。
人間は感情がある生き物です。
相続対策をするときは家族にその内容を伝えておき、できるだけ「揉めない」方法を考えることをおススメします。