不動産の貸し付けを行っている場合、税金計算においてよく事業的規模「5棟10室基準」ということばが出てきます。
不動産の貸し付けが事業的規模でないと適用できない税金の特例5つを説明します。
不動産所得の事業的規模「5棟10室基準」とは?
個人で不動産の貸し付けにより生じた所得がある場合、「不動産所得」として確定申告を行います。
その貸し付けている不動産の件数が「事業的規模」であれば、計上できる経費が多くなり税金が減ります。
では、どのくらいの件数の不動産を貸し付けていれば事業的規模になるかというと、
- 1戸建ての貸し付けであれば5棟以上
- アパートやマンションであれば10室以上
という「5棟10室基準」が目安になります。
アパートやマンションを1棟貸しするサブリースであれば、1棟ではなく部屋数で判定します。
駐車場の貸し付けは、5台で1室分として数えます。
不動産の貸し付けが事業的規模でないと適用できない税金の特例5つ
不動産の貸し付けが事業的規模でないと適用できない税金の特例5つを紹介します(青色申告であることが前提)。
1.青色申告特別控除55万円or65万円
青色申告をしている場合、帳簿付けの程度により次のいずれかの金額を「青色申告特別控除」として所得から引くことができます。
青色申告特別控除は所得税・住民税・国民健康保険料の計算上差し引かれるので影響が大きいです。
- 家計簿程度の簡易な帳簿付けであれば10万円
- 会計ソフトを使って複式簿記による帳簿付けをしていれば55万円
- 会計ソフトを使って複式簿記による帳簿付けをし、さらに電子申告をすれば65万円
不動産所得の場合、青色申告特別控除55万円or65万円を受けるためには、事業的規模で不動産の貸し付けをしており、かつ複式簿記による帳簿付けをする必要があります。
2.青色事業専従者給与
青色申告をしている人が、その青色申告している仕事につき家族に給与を払っている場合、税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」という書類を提出すれば、その給与を全額経費にすることができます。
しかし不動産所得の場合、事業的規模でなければ青色事業専従者給与の適用を受けることができません。
3.賃貸用不動産の取り壊しや除却の損失の全額経費計上
賃貸用不動産を取り壊したり除却したりした場合、事業的規模であればその損失の全額を経費に計上することができます。
一方事業的規模でない場合、その損失を差し引く前の不動産所得の金額までしか経費に計上することができません。
例えば、取り壊しや除却による損失の金額が300万円、その損失を差し引く前の不動産所得の金額が200万円であれば、
- 事業的規模の場合
不動産所得:200万円-300万円=△100万円
赤字100万円は給与所得など他の所得と相殺することができ、それでも損失が残れば翌年以降3年間にわたって繰り越すことができる。
- 事業的規模でない場合
損失の金額300万円>その損失を差し引く前の不動産所得の金額200万円 ∴経費に計上できる損失は200万円
不動産所得:200万円-200万円=0円で終了。
となります。
4.賃料が回収不能の場合の貸倒損失の経費計上
収入に計上した賃料が回収できなくなった場合、事業的規模であれば回収できなくなった年に貸倒損失として経費に計上することができます。
一方事業的規模でなければ、回収できなくなった賃料を収入に計上した年までさかのぼり、その収入はなかったものとして不動産所得の計算をやり直します。
具体的には、過去の確定申告の計算をやり直すための「更正の請求書」という書類を税務署に提出して、納めすぎた税金を還付してもらいます。
5.小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)
こちらは青色申告ではなく相続税のお話になります。
賃料を取って貸し付けている不動産を相続した場合、一定の要件を満たせばその土地の相続税評価額を200㎡まで50%減額することができます。
これを小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)といいます。
しかし事業的規模で不動産の貸し付けを行っていない場合、亡くなる前3年以内に取得した貸付用の土地については小規模宅地等の特例の適用対象外になってしまいます。
事業的規模で不動産の貸し付けを行っていれば、亡くなる前3年以内に取得した貸付用の土地も小規模宅地等の特例を受けることができます。
不動産所得の事業的規模のまとめ
- 不動産所得の事業的規模は「5棟10室基準」を目安に判定する。
- 事業的規模でなければ青色申告特別控除55万円or65万円、青色事業専従者給与の全額経費計上、取り壊しなどの損失の全額経費計上、賃料回収不能の貸倒損失経費計上を受けることができない。
- 貸付事業用宅地等については、事業的規模でなければ相続税の計算上亡くなる前3年以内に取得した土地については小規模宅地等の特例の適用を受けることができない。
このように、不動産の貸し付けが事業的規模と事業的規模でない場合とでは計上できる経費がだいぶ違います。