揉め事が起こりそうな遺言書を作るときは、必ず遺留分のことを頭に入れておきましょう。
遺留分を考えない遺言書を作ってしまうと、残された家族が迷惑を被るかもしれません。
遺産は遺言書があれば遺言書どおりに分けるのが大前提
遺産は、遺言書があれば遺言書どおりに分けるのが大前提です。
したがって、遺言書に「全財産を愛人に残す」と書いてあったら、愛人が全財産をもらうことになります。
もし愛人+相続人全員の承諾が得られれば遺言書とは別の分け方をすることができますが、この場合そんなことはありえませんよね。
このように遺言書のパワーはとても大きいのです。
遺留分とは相続人が最低限相続できる割合
亡くなった人(夫)に妻と子どもがいて、「全財産を愛人に残す」なんて遺言書が出てきたら・・・
残された妻と子どもは生活に困ってしまいます。
そこで民法は、相続人が生活に困らないように最低限相続できる割合を規定しています。
この相続人が最低限相続できる権利が遺留分なのです。
遺留分の割合
遺留分の割合は次のとおりです。
相続人 | 遺留分 |
配偶者 | 法定相続分の1/2 |
子 | 法定相続分の1/2 |
父母 | 法定相続分の1/2(相続人が父母のみである場合は1/3) |
兄弟姉妹 | 遺留分なし |
▼法定相続分の記事はこちらをご覧ください。
兄弟姉妹には遺留分はありません。
したがって、例えば相続人が配偶者と兄弟姉妹であり配偶者にすべて相続させたいと考える場合、「すべての財産を配偶者に残す」旨の遺言書を作れば、すべての財産は配偶者が相続し、兄弟姉妹は1円も相続できないことになります。
遺留分は請求しなければ取り戻せない
遺言により遺留分より少ない遺産しか受け取れなかった(これを「遺留分を侵害された」といいます)相続人は、多くもらった人に対して「遺留分に達するまでのお金を返せ」と請求することができます。
これを遺留分侵害額請求といいます。
遺留分は多くもらった人に請求しなければ取り戻せません。
やり方は、内容証明郵便などで遺留分を請求する意思を伝えます。
※こちらは弁護士の仕事の範疇となりますので、詳しくは弁護士にご相談ください。
遺留分を請求することができる期間は、遺留分を侵害されたことを知ってから1年と短いので、早めに動きましょう。
遺留分の計算は「時価」が使われる
遺留分の計算は「時価」が使われます。
時価とは、今売ったらいくら、という金額です。
相続税の申告で使う相続税評価額は時価より低いため、相続税評価額をそのまま使うことはできないので気を付けましょう。
遺言書を作るときには遺留分に注意しよう
揉めることが想定される遺言書を作るときは、必ず遺留分のことを考えましょう。
特に想定されるのは、子どもが複数いて「この子には財産を残したくない」などの意思があるときです。
遺留分を考えない遺言書を作ってしまった結果、遺留分侵害額請求をされると、家族に余計なもめ事が起こるかもしれないからです。
こんなことにならないように、遺言書を作るときはあまり財産を残すのが好ましくない子どもにも遺留分程度は残すような内容にするといいでしょう。
遺留分の精算は原則お金。現物で精算すると所得税+住民税がかかる
遺留分侵害額請求を起こされたら、原則としてお金で渡すことになります。
両者の合意があれば現物で渡してもいいのですが、現物で精算すると渡した人に譲渡所得が発生し所得税+住民税がかかります。
これは、本来ならお金を払うところ、お金の支払いは免除されてその代わりに現物を渡した、つまり現物を売ったのと同じ、というように考えられるからです。
遺留分のまとめ
相続人の生活を保障するための遺留分ですが、財産を残すのが好ましくない相続人にも権利が認められ、かえって事態を複雑化させる制度でもあります。
揉めそうなときは、遺留分を侵害しない遺言書を作るに越したことはありません。